心臓移植の歴史 【1】偶然の出会いと運命の始まり
- Yumiko Hosoda
- 6月22日
- 読了時間: 2分
更新日:3 日前
シリーズ 心臓移植の歴史
日本での心臓移植はこの20年の間に大きく進歩し、安全に行われるようになってきました。一方、成人に比べ小児の心臓移植の件数は、欧米や他のアジア諸国に比べて少ない状態です。
心臓移植が安全に行われるようになったのは、過去の先駆者たちの苦労と試練、心臓病を抱えた患者さんと家族の医学への貢献があったことによるものです。
心臓移植の歴史を知ると、現在我々が受ける当たり前の医療が先人の努力の賜物であることが分かります。
このシリーズでは、史実に基づいて心臓移植の歴史を紹介します。記述の中には、読みづらい表現や際どい表現もありますので、気になる方はその箇所を飛ばして読んでいただいても構いません。
心臓移植は、ひとりの「死」をもって、ひとりの「命」を救う医療です。心臓移植が安全に行われ、人の命を救う医療として世間に受け入れられるようになるには、長い年月がかかりました。改めて、先人たちの功績に敬意を表するとともに、この場でその歴史を読者の皆様に紹介したいと思います。
分かりにくい医学用語は適宜キャプションで解説しています。
心臓移植の歴史 I/V
ひとつの人生、2つの心臓 −ケープタウン、1967年12月3日−
章1:偶然の出会いと運命の始まり
12月のある午後、アン・ワシュカンスキーはケープタウンの病院で夫を見舞った後、自宅へと車を走らせていた。彼女は偶然、交通事故の現場を目撃した。多くの野次馬が集まり、道路には毛布をかけられた遺体が横たわっていた。亡くなった女性の娘が傍らでひれ伏していた。救急救命士たちは懸命に命を救おうとしていた。警察はアン・ワシュカンスキーにその場に留まらず運転を続けるよう指示した。彼女には、この若い少女の心臓が24時間後、自分の夫の体内で鼓動を打つことになるとは想像もできなかった。
この悲劇的な偶然が、外科手術の奇跡へと変わった。この手術は、現在では歴史上最も有名なものの一つとされている。1967年12月3日の早朝、クリスチャン・バーナードは人間の心臓を移植した最初の外科医となった。50年後、この衝撃的な出来事を鮮明に覚えている人はほとんどいない。患者の名前はアンの夫であるルイス・ワシュカンスキーで、彼が数週間生き延びたことを覚えている人もいる。また、世界中の人々がバーナードを称賛し、祝福した。彼の偉業は、心臓移植の時代への扉を開いた。

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