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【後半】医療だけでは完結しない——小児循環器医が取り組む先天性心疾患患者の自立支援

  • 執筆者の写真: Yumiko Hosoda
    Yumiko Hosoda
  • 10月8日
  • 読了時間: 7分

小児の先天性心疾患治療は医学の進歩により生存率が大きく向上しました。しかし治療を終えた患者さんたちが大人になり、社会で自立する段階になると、新たな課題に直面します。

愛媛大学医学部附属病院 小児・思春期 療育学講座/移行期医療(成人先天性心疾患)センターで活動される檜垣高史先生は、医療だけでなく就労や教育など生活全般の自立支援にも力を注いでいらっしゃいます。小児科から成人医療への移行期におけるサポート体制の構築と、その課題についてお話を伺いました。




医療機関だけでは解決できない壁


ー社会的な自立と就労は、切り離せないものかと思いますが、就労支援の重要性についてどう考えますか?


就労支援は非常に重要。必要不可欠ですね。例えば、30代の患者さんで、普通高校を卒業したにも関わらず就職できず、アルバイトを転々としながら不安定な生活を送っていた方がいました。この方を就労継続支援A型事業所につなげたところ、はじめて自分の居場所を見つけ、生活が安定し始めました。


障害者雇用の現状を見ると、知的障害や精神障害の雇用は増えていますが、身体障害者の雇用数は停滞しています。特に先天性心疾患の患者さんは、見た目では健常者と同じなので、分かりにくく、能力があっても体調管理のために休息が必要なこともあるのですが、なかなか理解されにくいのです。無理をしてしまったりして、仕事を続けることができなくなったりすることもあります。


就労支援では、就労準備、就職支援(いわゆる就活)、就労継続という3段階が大切です。「自分に合う仕事を見つけ無事就職できたら終わり」ではなく、就職後も無理なく続けられる環境づくりが重要です。


ーせっかく就職できても、短期で退職をすることになっては本末転倒ですからね。教育支援についてはいかがですか?


教育も同じくとても重要です。


病弱教育、支援教育の充実はとても重要で、その後の人生に大きな影響を及ぼします。


インクルーシブ教育はとても大切ですが、同時に子どもの能力や特性に合った教育を選ぶことも重要です。愛媛では、病気療養中の子どもたちにとっての遠隔授業などの取り組みがまだまだ不十分です。入院中の子どもが地元の学校の授業を受けられるシステムが確立できたらいいなと思います。


コロナ禍をきっかけに、リモート会議などの技術は進歩して、遠隔授業も、技術的には簡単にできるのですが、どうしても制度などの壁があります。


医学部の学生たちが『チルドレンサポーター』という部活を作り、学習支援に取り組んでくれています。彼らは、病棟や自宅・WEBも用いて、勉強を教えてくれているんですが、学習だけでなく精神的なサポートにもなっています。また教える側の学生も学ぶものが多いようです。こうしたボランティア活動が、将来的にうまく制度化されることが理想的です。


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この自立支援事業の狙いは、慢性疾病のために体調を崩しやすく、その結果、社会経験が不足しがちな子どもたちを社会に向けて自立していけるようにサポートすることです。病気があってもあきらめない、支援があれば、希望が現実になるような制度です。支援がなければ『サポートを受ける側』になってしまう子どもたちを、将来『サポートができる側(納税者側)』に立てるようにする、社会の担い手として、自立できるよう支援することが目標とされています。


就労支援における具体的な課題として、多くのA型事業所では立ち仕事が中心で、心臓に負担がかかる作業が多いという問題もあります。例えば食品の盛り付けやお掃除など、体力的に厳しい仕事が多く、心臓病の患者さんには適していないケースがあります。デスクワークができるA型事業所がもっと増えれば、心臓病の方も継続して働ける環境が整うのではないかと思います。


ー社会を支える側になることを目指すということですね。


まさに、この画期的な自立支援事業の醍醐味だと思います。


持続可能な支援体制の構築に向けて


ー行政の理解と協力がなければ成り立たないからこそ、行き詰まっている部分があるということですね。

国の役割は制度設計と予算確保です。法律を作り、義務化することで確実に進むようになります。我々のようなNPOは現場のニーズに柔軟に対応できる強みがありますが、医療機関との連携が必須です。


実際に愛媛では医療機関とNPOが連携できたからこそ、効果的な支援ができました。最近は病院のソーシャルワーカーもこの事業を理解してくれるようになり、連携が進んでいます。ただ、多くのソーシャルワーカーは病院内でしか活動できないので、院内で活躍するメディカルソーシャルワーカー(MSW)と、地域にアウトリーチも得意とする自立支援員とを、うまくつなげることが重要です。


ーNPO運営の視点からは、どのような課題がありますか?


やはり財政面の問題が一番大きいですね。財政問題を解消するため、収益事業をすべきかと迷ったこともありましたが、私たちは非営利であることに意義を見出しています。現在は県と市の委託事業とその他の補助金などの資金で運営していますが、安定性に欠けます。認定NPO法人になって寄付も集められるようになりましたが、専任の人材を安定して雇用できるほどの余裕はありません。


そしてもうひとつの課題は次世代育成です。これまでは熱意ある人たちで活動してきましたが、若い世代に引き継いでいってもらうには、仕事として成り立つ環境が必要です。また、この分野を学問としても体系化していかなければ、専門性を次世代に引き継ぐことができません。


成人先天性心疾患領域が発展したのは、そこに新しい学問ができてきたからではないかと思います。自立支援事業も同様に、持続可能な取り組みとして新しい世代に引き継いでいくためには、NPOとしての活動だけでなく、仕事として成り立つ環境づくりと、学問的な基盤を作ることが重要なんです。


「違いを認め合う社会」が自立への道筋になる


ーハートキッズジャパンとはどのような連携ができそうですか?


キャンプなどの活動で一緒にできると素晴らしいですね。特に、病気のある子どもたちだけでなく、一般の子どもたちも参加する混合型の取り組みが理想的です。


お互いに最初は接し方がわからなくても、一緒に活動するうちに自然と打ち解け、理解が深まります。実際に以前、一般の子どもたちも参加したキャンプでは、帰りのバスでは皆が打ち解けて楽しそうに話していました。こうした経験は双方にとって貴重な財産になるのです。病気があってもなくても、子どもたちは同じです。


キャンプ参加者同士のつながりは、本当に強いものがあります。1年に1回程度の活動でも、そこで夜を共にして様々な話をすることで絆が生まれます。何かあった時に集まったり、支え合ったりできるような関係性ができるのは、とても重要なことだと思います。


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ー最後に、一般の方々へのメッセージをお願いします。


子どもは病気があってもなくても、必ず大人になります。ですから、今その場のことだけでなく、将来展望を持って育てていくことが大切です。目の前のことだけでなく、大人になった時の姿を想像しながら、今をどう過ごすかを考えるとうまくいくのではないかと思います。


インクルーシブ教育はとても大切ですが、同時に子どもの能力や特性に合った教育を選ぶことも重要です。病弱教育、支援教育の充実はとても重要で、その後の人生に大きな影響を及ぼします。


私たちは皆、同じ人間でありながら一人ひとり違います。この違いを認め合いながら、それぞれの可能性を最大限に伸ばせる社会を目指したいですね。病気があってもなくても、誰もが自分らしく生きられる社会づくりに、皆さんもぜひ関心を持っていただければ嬉しいです。





インタビュアー 秋山 典男

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