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【前半】「死を考えることは、生を考えること」——TSURUMIこどもホスピス 原純一先生が語る、こどもホスピスの本質

  • 6月15日
  • 読了時間: 9分

重い病気とともに生きる子どもたちにとって、医療は命を支える大切な存在です。しかし、子どもたちの人生は治療や病院の中だけで完結するものではありません。


「遊びたい」

 「友だちと過ごしたい」

「家族と一緒に、楽しい時間を持ちたい」


そうした子どもとして当たり前の願いを大切にしながら、生命を脅かす病気とともに生きる子どもたちと家族を支えている場所があります。大阪市鶴見区にある、TSURUMIこどもホスピスです。


今回は、TSURUMIこどもホスピス副理事長であり、小児血液・腫瘍医として長年子どもたちと向き合ってこられた原純一先生に、こどもホスピスの役割、設立の背景、そして子どもたちと家族に向き合う中で大切にしていることについて、NPO法人ハートキッズ・ジャパンがお話を伺いました。


【プロフィール】

原 純一(はら・じゅんいち)先生

 TSURUMIこどもホスピス副理事長。小児血液・腫瘍医。小児がん診療に長年携わり、命に関わる病気を抱える子どもたちと家族に向き合ってきた。TSURUMIこどもホスピスでは、医療の枠を超え、子どもたちがその子らしく過ごせる時間と場所づくりに取り組んでいる。



ホスピスには「死」と向き合う意味がある


――一般的にホスピスというと、末期がんの方が過ごす場所というイメージがあります。TSURUMIこどもホスピスは、通常のホスピスとどのような違いがあるのでしょうか。


最近、「こどもホスピス」という言葉が少し広がってきています。ただ、私が少し危惧しているのは、「ホスピス」という言葉が本来の意味から離れて、軽く使われすぎているのではないかということです。ホスピスという言葉には、やはり「死」というものがつながっていると思います。死を考えることは、生を考えることでもあります。私は、そういうものが世の中に自然に受け入れられるといいなと思っていました。


ただ最近は、その「死」というところが抜け落ちたまま使われているように感じることもあります。もちろん、いろいろな定義の仕方があると思いますが、私たちは、やはり生命を脅かされている子どもたちを対象にした場所でありたいと思っています。ここに来る子どもたちも、ご家族も、私たちも、どこかで死というものを意識しながら活動しています。そこは、こどもホスピスとして大切なところだと思います。


――単なる遊び場や療育施設ではなく、命の時間を意識しながら支える場所ということですね。


そうですね。もちろん、ここに来ている間は、子どもたちにはできるだけ病気のことや死のことを忘れて、楽しく過ごしてほしいと思っています。でも、スタッフはその子の命の時間を意識しています。残された時間が短いかもしれない子には、できるだけ早く来てほしいとも思います。がんのお子さんの場合、診断された時点で、どこかで死を考えることになります。実際には治る子の方が多いとしても、死ぬ可能性は常にあります。そうした子どもたちや、ほかの疾患でも命の危機が近づいてきた子どもたちを対象にしています。



病院だけでは足りないものを支える場所


――原先生は小児血液・腫瘍医として、重い病気を持つお子さんやご家族に長年向き合ってこられました。医療の最前線にいらした先生が、医療の枠を超えたTSURUMIこどもホスピスのような場所が必要だと思われたきっかけを教えてください。


具体的な一つのエピソードがあったというよりも、病院だけでは足りないものがあるということは、ずっと感じていました。病院でも、緩和ケアをはじめ、さまざまな取り組みが進んできました。医師も看護師も保育士も、みんな一生懸命やっています。でも、それだけではどうしても足りないものがあります。身体的な痛みだけではなく、精神的な痛み、いわゆるスピリチュアルペインを癒す場所。TSURUMIこどもホスピスは、そこに特化している場所だと思っています。



――病院の中にも、子どもたちを支える専門職の方はたくさんいらっしゃいますよね。


そうですね。病院の中でも、保育士さんやリハビリスタッフはとても大きな役割を果たしています。

たとえばリハビリのスタッフは、子どもと30分ずっと一緒にいることがあります。30分間、子どもと一対一で関わる職種は、病院の中でも意外と少ないんです。だから、子どもたちにとっては、頼れるお兄さん、お姉さんのような存在になることもあります。病院の中にも大切な関わりはあります。ただ、それでも病院だけでは難しい部分を、こどもホスピスが補っているのだと思います。



海外のこどもホスピスから学んだこと


――TSURUMIこどもホスピスの設立にあたっては、英国のヘレンハウスなど、海外のこどもホスピスの先行事例も参考にされたと伺いました。海外の取り組みから学んだ点や、日本に合わせて調整した点はありますか。


ヘレンハウスが行っているレスパイトのような取り組みは、ここではそのまま行うことが難しい面があります。本格的にレスパイトをやろうと思うと、看護師の二交代、三交代のような体制が必要になります。人員的には、なかなか難しいところがあります。一方で、日本では病院がレスパイト用の病床を確保していることもあります。そこは病院の役割として担っている部分もあります。




――海外の仕組みをそのまま持ってくるのではなく、日本の医療環境に合わせて形を作ってきたのですね。


そうですね。ただ、ヘレンハウスから参考にしたものもあります。たとえば、建物の美しさや、子どもたちが喜ぶ仕掛けです。子どもたちがここに来ると、本当に興奮状態になります。嫌なことを全部忘れて、この日だけは思いきり楽しむ。そういう場所でありたいと思っています。


――実際に見学させていただいて、パンフレットやホームページで見ていた印象以上に、子どもたちがワクワクする仕掛けがたくさんあると感じました。


そうですね。子どもたちにとって、楽しい場所であることはとても大切です。それから、同じような病気の子どもたち同士が支え合う、ピアサポートも大切だと思っています。同じような病気の子どもたちを集めてプログラムを行うこともあります。最近は循環器疾患のお子さんも少しずつ増えてきました。近くに国立循環器病研究センターもありますので、心臓移植を待っている子や、移植後の経過が思わしくない子など、さまざまな状況の子どもたちが来ています。




立ち上げで大切だったのは、組織をつくること


――日本初のコミュニティ型こどもホスピスを立ち上げるにあたり、特に大変だったことは何でしょうか。


立ち上げの初期は、私自身が中心になっていたわけではないので、詳しいところまでは分からない部分もあります。ただ、やはり組織づくりが一番大変だったのではないかと思います。それまで、いろいろな人が関わっていました。しかし、関わってくださった方全員に職員として働いてもらうわけにはいきません。皆さん、それぞれ他の仕事を持っている方も多かったですし、ここで専従として働いてもらうためには、組織として形を整えていく必要がありました。その過程では、離れていった方もいたと思います。感情的な難しさもあったのではないかと思います。そうした中で、組織を固めていくには、経営者としての強さが必要だったのだと思います。何でも「はい、はい」と受け入れているだけでは、うまくいかなかったでしょうね。



10年かけて整ってきた運営体制


――現在の運営体制について教えてください。看護師さんや保育士さんなど、どのような方々が関わっているのでしょうか。


現在は、看護師、保育士、支援学校での経験があるスタッフ、事務スタッフ、ファンドレイザーなど、さまざまな職種のスタッフが関わっています。以前は理学療法士もいました。理学療法士がいると、いろいろな面で助かることがありました。常勤スタッフも少しずつ増えてきました。ただ、今の体制になるまでには時間がかかりました。最初の頃は、給与も本当に少なく、ボランティアに近いような形で来てもらっていた時期もあります。10年かかって、ようやく世間並みに近づいてきたところです。



――ケアに関わるスタッフが、ケアに専念できる体制を作ることも大きな課題だったのですね。


そうです。以前は、ケアスタッフが事務作業もして、掃除もしていました。掃除スタッフのアルバイトを入れられるようになったのも、ここ数年のことです。それまでは、ボランティアさんとスタッフで掃除もしていました。ケアスタッフが本来のケアに専念できる体制を作ることは、大きな目標でした。昨年ごろから、ファンドレイズを専門に担当するスタッフも入りました。それまでは、マネージャーや事務スタッフ、ケアスタッフが、いろいろなところへ出向いて理解者を増やしていました。ずっと掛け持ちでやっていたんです。ようやく少しずつ、役割分担ができるようになってきました。




活動そのものが、支援の輪を広げていく


――TSURUMIこどもホスピスは利用料無料で運営されています。寄付や支援をどのように集めてこられたのでしょうか。


開設当初は、日本財団からの支援もありました。ただ、それ以降は基本的に自力で集めてきました。

私たちは、大きな企業から一度に大きな寄付をいただくよりも、地域の市民の皆さんから少しずつ応援していただく方が、長く応援してもらえるのではないかと考えてきました。そのため、月々1,000円からのマンスリーサポーターを増やしていくことに力を入れてきました。


――企業からの支援もあるのでしょうか。


企業からの支援もあります。ただ、大きなスポンサーがいるというよりは、企業サポーターとして応援してくださる形が多いです。企業の方々がお掃除などのボランティアに来てくださることもありますし、自分たちの企業でできることを考えて、物品提供などで応援してくださることもあります。ただ、支援の中心はやはり個人の方々です。テレビなどで取り上げられたことをきっかけに知ってくださった方もいますし、医療関係者や、つながっているお子さんのご家族、ご遺族の方が応援してくださることもあります。地域の方が、毎年決まった時期に現金を持って来てくださることもあります。そうした個人の方々の支えは、私たちにとって想定以上のものでしたし、大きな強みでもあります。


――活動が広がることで、支援も少しずつ広がってきたのですね。


そうですね。私たちのPRは、活動そのものです。活動を見て、賛同してくださる方が増えていきます。

まず何かを始めることが大事だと思います。活動が動き出すと、それに比例して応援してくださる方も増えていくのだと思います。


【前半】では、TSURUMIこどもホスピスが大切にしている「ホスピス」の意味、病院だけでは支えきれない子どもたちの時間、そして10年をかけて整えてきた運営体制について伺いました。【後半】では、TSURUMIこどもホスピスで大切にしている子どもとの向き合い方、印象に残るご家族とのエピソード、そして原先生から医療者・家族・社会へのメッセージをお届けします。



インタビュー・執筆:秋山 典男

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こどもたちの未来を守るために

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