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【後半】「子どもの身になって考えてほしい」——TSURUMIこどもホスピス 原純一先生が語る、命と向き合う子どもたちへのまなざし

  • 6月22日
  • 読了時間: 10分


重い病気とともに生きる子どもたちが、病院や治療だけではなく、子どもらしい時間を過ごせる場所。大阪市鶴見区にあるTSURUMIこどもホスピスでは、生命を脅かす病気とともに生きる子どもたちと家族を支え続けています。


前半では、TSURUMIこどもホスピスが大切にしている「ホスピス」の意味、設立の背景、そして運営体制や支援の仕組みについて伺いました。


後半では、日々の関わりの中で大切にしていること、印象に残るご家族とのエピソード、そして命と向き合う子どもたちから教えられたことについて、原純一先生にお話を伺います。




たどり着けていない子どもたちに、どう届けるか


――設立から10年が経ち、現在、特に課題として感じていることはありますか。


一つの大きな課題は、ここに来られるご家族には、どうしても偏りがあるということです。家族に情報を探す力がある。病院や支援者とのつながりがある。ここまで来ることができる環境がある。そうしたご家庭は、TSURUMIこどもホスピスにつながりやすいかもしれません。でも、家族の関係が難しかったり、経済的に厳しかったり、情報にアクセスしづらかったりするご家庭の子どもたちにも、同じように支援は必要です。子どもたちはみんな平等です。そこへのアクセスは、ずっと課題だと思っています。


――施設に来てもらうだけではなく、こちらから届けに行くことも必要なのですね。


そうです。最近は、病院に行ったり、家に行ったり、私たちの方から動くことにも力を入れています。スタッフも増えてきたので、少しずつそうした活動ができるようになってきました。医療機関との連携も大切です。大きな医療機関と直接つながっておくことで、本当に必要としている子どもたちを見つけることができます。



子どもの声を受け取る


――TSURUMIこどもホスピスは、病院ではなく、家や遊び場のような空間でもあります。日々の運営の中で、大切にしていることは何でしょうか。


大切にしているのは、子どもたちの声や、子どもたちが発信しているものをきちんと受け取ることです。いろいろな年齢の子どもたちがいます。言葉で伝えられる子もいれば、言葉で伝えることが難しい子もいます。ただ遊んでいるように見えても、子どもたちは遊びながら、日々我慢していることや頑張っていることを発散したり、表現したりしています。私たちは、それをちゃんと見て、受け取るように心がけています。



――大人の思いだけにならないことが大切なのですね。


そうですね。「それは本当に、その子が望んでいることなのか」この問いは、いつも立てています。限られた時間の中で、その子が何をしたいのか。どう思っているのか。本当にそれはその子が望んでいることなのか。スタッフみんなで話しながら考えています。大人の思いだけにならないようにすることは、とても大切です。


――病気のことや死のことを、子どもたちは話すのでしょうか。


ここは楽しい場所なので、病気のことをあまり口に出さない子も多いです。ホスピスだから、そういう話をする場所だと思われるかもしれませんが、子どもたちは、ここを楽しい場所だと思って来ています。だから、あまり病気の話をしたくないこともあります。でも、話したくないということも、一つの意思表示です。何でも聞くよ、とは伝えます。ただ、聞きすぎても嫌がることがあります。話したくないなら、それはそれでいいのだと思っています。



「ホスピスって、こういうことなんだ」と感じた家族との時間


――これまで関わってこられた中で、特に印象に残っているエピソードはありますか。


まだTSURUMIこどもホスピスができて間もない頃のことです。病院で治療を続けていた小さなお子さんがいました。その子のご両親に、私は「これから残されている時間に、できるだけたくさんのことを経験させてあげることが、あなたたちの大切な仕事です」とお話ししました。その後、ご家族がTSURUMIこどもホスピスに来てくださり、「子どもと一緒にピクニックをしたい」と話してくれました。庭にテントを立てて、お母さんがお弁当を作ってきてくれました。生まれて初めての水遊びもしました。芝生の上で、家族で過ごす時間がありました。その時の光景は、今でも忘れられません。



――どのような様子だったのでしょうか。


病院では見たことのない表情でした。子どもがニコニコしていました。お母さんが笑っているから子どもが笑ったのか、子どもが笑っているからお母さんが笑ったのかは分かりません。でも、あんな表情は病院では見られませんでした。お母さんが作ってきた大きなお弁当にも、お母さんの気持ちがあふれていました。スタッフにとっても、「ホスピスってこういうことなんだ」と初めて実感したような時間でした。



――治療では変えられない状況の中でも、できることがあるのですね。


そうです。治せない、これ以上治療が難しいという状況の中でも、子どもに経験させてあげられることはあります。病院のベッドの上だけではなく、外に出て、遊んで、家族と過ごす。そうすると、子どもの表情が変わるんです。親御さんにとっても、子どもの笑顔を見ることは最大のプレゼントだと思います。



グリーフケアは、亡くなった後から始まるのではない


――そのような時間は、ご家族にとっても大きな意味を持つのではないでしょうか。


そう思います。グリーフケアは、亡くなってから始まるのではなく、終末期から始まっていると思います。子どもが亡くなった後のご家族の悲しみは、当然とても大きいものです。ただ、その前に、子どもが子どもらしく過ごせた時間、家族で笑えた時間があるかどうかは、その後のご家族にとっても大切な意味を持つと思います。突然亡くなる場合や、事故、自死のような場合は、グリーフもとても重くなります。心臓の病気でも、突然のことはありますよね。だからこそ、限られた時間の中で、子どもと家族がどう過ごせるかは、とても大切だと思っています。


「ここがあってよかった」と言ってもらえること


――TSURUMIこどもホスピスがあってよかったと感じるのは、どのような時ですか。


私たちが「ここがあってよかった」と思うというより、ご家族が「鶴見があってよかった」と言ってくださる時ですね。子どもたちが「また来たい」と言ってくれる。 「楽しかった」と言って帰っていく。 ご家族が「来てよかった」と言ってくださる。そういう時に、やっていてよかったと思います。

ただ、私たちはいつも「これでよかったのかな」と悩みながらやっています。完全に満足することは、なかなかありません。それでも、子どもたちやご家族が受け入れてくださった時、連絡をくださった時、待っていてよかったと思います。


――利用できていない子どもたちも、まだたくさんいるのですね。


そうですね。昨年1年間でも、ここにつながっていた子どもたちの中で亡くなった子がいます。ただ、大阪府全体で見た時に、どれだけの子どもたちに届いているのかは分かりません。まだまだカバーできていない子どもたちはたくさんいます。だからこそ、必要な子どもたちにできるだけ届いてほしいと思っています。



建物ができたら完成ではない


――今後のビジョンについて教えてください。


私自身は、現状を大切にしながら、スタッフが経験を積んで育っていくことが大事だと思っています。

まだ若いスタッフもいますし、経験の浅いスタッフもいます。経験を積まないと、技量は上がりません。みんなが成長していってくれることを楽しみにしています。それから、必要な子どもたちにもっと来てほしいです。ただ、親御さんもみんながすぐに来られるわけではありません。「ホスピス」という名前に抵抗がある方もいます。いろいろ考えたり悩んだりしている時に、相談だけでもしてもらえる場所でありたいと思っています。



――TSURUMIこどもホスピスは、建物だけではなく、人や支援の輪によって育ってきた場所なのですね。


そうです。この建物に目が行きがちですが、建物ができたら完成というわけではありません。

立派な建物なので、「とてもお金持ちの団体なのでは」と思われることもあります。でも、そうではありません。たくさんの方が応援してくださっているから、ここは続いています。

子どもたちがここで過ごす姿を見ると、この場所にこだわったことは正解だったと思います。子どもたちは、自信を持って過ごしています。やりたいことができる場所になっています。




子どもたちは、自分の命を感じ取っている


――最後に、命と向き合う子どもたちとの関わりについてお聞きしたいです。子どもたちは、自分が亡くなるかもしれないということを、どのように受け止めているのでしょうか。


幼稚園くらいの子でも、自分は死ぬのかもしれないということを、どこかで理解していると思います。

みんな、それを口にすることはほとんどありません。でも、明らかに分かっているなと思うことがあります。治療がうまくいかなかったら死ぬ病気だという説明はしています。だから、子どもたちは分かっています。ただ、みんな粛々と受け入れているように見えます。AYA世代の子たちは、考えないようにしている感じもあります。高齢者の方のように「人生はこんなものかな」とは思えません。やはり、1日でも長く生きたいという思いがあると思います。


――子どもたちが、自分の死について言葉にすることはありますか。


直接「死ぬのが怖い」と言うことは、あまりありません。

でも、自分がいなくなった後のお母さんのことを心配するような言葉を口にすることがあります。

「お母さん、大丈夫かな」 「ずっとそばにいて」そうした発言が出た時に、この子は自分がもうすぐいなくなって、お母さんが一人になってしまうことを分かっているのだなと感じます。その時は、「お母さんもお父さんも大丈夫やで」「兄弟のことも心配ないで」と伝えるようにしています。子どもに向かって「あなたは死ぬんだ」と言うことはしません。でも、その子が発しているものには、ちゃんと応えるようにしています。



――子どもたちは、家族のことを思っているのですね。


本当にそうです。最後の最後まで、お母さんや家族のことを思っています。子どもってすごいなと思います。大人の方が、ある意味では弱いのかもしれません。子どもたちは、自分の運命を本当に立派に受け入れているように見えることがあります。私たちは、そうやって生きた子どもたちの人生に少しでも関わらせてもらっています。だからこそ、その子たちのことを伝えていきたいという思いもあります。




子どもの身になって考えてほしい


――医療者、ご家族、そして社会全体に向けて、原先生から伝えたいことはありますか。


一つは、みんな子どもの身になって考えてほしいということです。子どもは、自分で判断できないことも多いです。大人が代理人として判断する場面がたくさんあります。だからこそ、本当に子どもの幸せを考えているかが大事です。本人になり代わって考えること。 その子にとっての幸せを考えること。

私たちは、死というものに直面した子どもたちを主な対象にしていますが、願っていることは一つです。そういう子どもたちが、少しでも幸せな人生を送ってほしい。それだけです。



▶︎TSURUMIこどもホスピス



医療の先にある、子どもの人生を支えるために


医療は、命を救うためにあります。 しかし、どれほど医療が進歩しても、救えない命があります。

それでも、子どもたちの人生はそこにあります。


治療の時間だけではなく、遊ぶ時間、笑う時間、家族と過ごす時間、友だちと出会う時間。 その一つひとつが、子どもたちの人生を形づくっています。


TSURUMIこどもホスピスの実践は、私たちハートキッズジャパンが大切にしている「医療の先にある子どもの生活や人生を豊かにする」という思いとも深く重なります。子どもたちの声を聞くこと。 大人の思いだけで決めないこと。 その子にとっての幸せを考えること。原先生のお話は、命と向き合う子どもたちを支えるうえで、私たち大人が忘れてはいけない大切な視点を教えてくれました。



原 純一(はら・じゅんいち) 先生

TSURUMIこどもホスピス副理事長。小児血液・腫瘍医。

小児がん診療に長年携わり、命に関わる病気を抱える 子どもたちと家族に向き合ってきた。


インタビュー・執筆:秋山 典男

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こどもたちの未来を守るために

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